世界のあちこちで アイシテル

         お侍extra 三景篇
 


       




トリュフタイプのチョコや、ガナッシュを作る材料段階のブロックチョコ、
細かく刻み、大きなボウルで湯煎にかけ、丁寧に溶ろかして。
バターを入れるとつやが出ると聞いたのも忘れずに、
やはり丁寧に、焦らないで手掛けた下地。
バットに流し入れると、
冷蔵庫じゃあなく、氷を仕込んだ“氷室”でじんわりと固めた、
なかなかに見事な出来栄えの生チョコレート。

 「…わあvv」
 「上出来vv」
 「………vv」

溶かさぬよう崩さぬよう、慎重に賽の目に切り分けて、
ココアパウダーを茶こしで全面へとまんべんなく降りかける。
クッキングペーパーを敷いた化粧箱へ そおっと収め、
リボンの形のプチシールで封をして。
真っ白な蓋をし、やっぱりそおっとそおっと、
何より傾けないようにと気を配りつつ、
深みのある紅色の包装紙にて綺麗にくるめば、

 「出来たvv」
 「わたし、リボンシール貼りますvv」
 「俺は これ。」
 「あ、かわいい。羽根なんだ。」

手作り生チョコに負けず劣らず、
包装にだってあちこち回って小物を揃えた。
勿論のこと、そっちが本命の贈り物だって…

  こればっかりは、
  仲良しさんへも内緒だったけれどvv

やった出来たと肩から力も抜けてゆき、
まだまだ期末考査は続くというに。
昨日から関わってたややこしい騒動だって、
まだ少しほどは事情聴取とかも残ってるというに。
そんなのどうでもいいと
あっさり吹っ飛ばしたほどの一大イベント。
その下準備が完了したぞと、
調理場に据えられた丸椅子へそれぞれ腰掛けて
はぁあと大きな息をついた三人娘であり。

 「これでもう、明日の現代国語が赤点でも悔いはないなぁ。」
 「アタシも〜。」
 「…、…。(頷、頷)」

保護者の皆様が聞いたなら、
こらこら順番が逆だと、半ば本気で嘆いたかもしれないが。
思春期の、しかも最愛の対象がいるヲトメたちには恐らく、
意味のない、甲斐もない“説教”にしかなるまいて。
その試験の2日目を、微妙に気もそぞろなまま片付けてから。
身勝手な事情から自分たちの大切なお友達を振り回した輩へお灸を据えるべく、
長い御々脚が自在になるよな勇ましいいで立ちへと着替えての、
丹羽良親と打ち合わせをした、某アスレティックサロンのロッカールームへ。
そりゃあ意気込んでの乗り込んだお嬢様たちだったものの、

 「……馬鹿馬鹿しい。」

気が抜けたこの間合いになって、そっちのあれこれを思い出したのか。
軽やかなくせっ毛の金の髪をはらりと背後へ散らすよにして、
ただただ仰向き、天井を見上げていた久蔵が、ぽつりとそんな一言を呟いた。

 「久蔵殿?」

何が?と感じたのが平八ならば、
そこは判っておいでか、七郎次は小さな苦笑を口元へ浮かべただけであり。
そんな二人の存在に、今だけ甘えたくなったものか。
問題のお騒がせが、他でもない彼女を巡っての騒動であった点が、
何とも許せないのだろう、そんな気分を吐露してくれて。

 「俺を見張ってたんなら、それで十分だ。」

  そうですよね。
  殿方と逢う機会なんて、
  あればすぐにも判るってもんでしょに。

 「大体、……中学生か。」

  チョコレートが本命かどうかなんて、
  いちいち騒がれてもねぇ。

  「……シチさん、どこまで以心伝心ですか。」

これでもかなり饒舌な紅ばらさんなのだが、
それでも結構な言葉足らずで。
だっていうのに、こうまできちんと把握出来てしまえるのは、

 “兵庫せんせえか、シチさんくらいのもんでしょね。”

二人がかりでそんな甘やかして・もうと。
呆れながらも、それでいいって容認出来ちゃう自分なこと、
楽しくってしょうがない ひなげしさんであり。
ああそうだったね、
あの苦しかった前の世界で出会ったわたしたちも、
どっかが何か変なはずのお互いに、それでもすぐにも打ち解けて。
言わなかった部分を聞かないでいてくれた優しさが、
泣きたくなるほど嬉しくもあり、
同じくらいに切なくもあったんでしたっけね。

 「ねえねえ、ヘイさんはゴロさんへ何て言ってこれ渡すんですか?」
 「え〜〜〜っ? 何てこと訊くんですよぉ。/////////」
 「だって、
  さぞかし小粋な、それでいてキュートな言い方をなさるんだろうなって。」
 「…、…。(頷、頷、)」
 「久蔵殿まで〜〜〜。//////」

キャッキャとはしゃぐお嬢様たち、
期末考査はまだ半分しか終えてはないのですが、
そんなのモノともしないでのこと、
今宵のデートに胸いっぱいならしいですvv



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